家畜の飼料と栄養で重要なのは良質な水の摂取
家 畜の飼料と栄養を考えるとき、往々にしてカロリーや蛋白質、また、ビタミン・ミネラル類に直接的には関係のない水(水分)を忘れがちです。恐らく、重要度 で順位をつければ、水はカロリーや蛋白質など他の栄養素とほぼ同等の重要性を持っていると云えますし、人によっては筆頭にあげるかもしれません。
筆者は、水を充分に飲んでいない家畜は飼料を食べる量も少なく、結果として成長、繁殖、維持、増体、産卵、産肉、産乳などが下がることは必死であると断言します。これは過去からの数多くの研究論文や基本的な栄養生理からも指摘できることです。
本トピックスは、米国での家畜・乳牛などに与える水の品質にかかわるいくつかの点を最近の傾向から下記に御紹介しましょう。
(1)アルカリ性(CO3、HCO3):処理せずに使える限界は400 ppmです。
(2)二酸化炭素(CO2):特に指定はありません。
(3)塩素(Cl):処理せずに使える限界は250ppmです。これ以上の数値では水が塩っぽく、錆が起き易いので二次的最大汚染レベル(EPA SMCL)としています。
(4)銅(Cu):処理せずに使える限界は1 ppmです。これ以上では苦味が強くなり、毒性が出る場合もあり、肝臓が冒されやすいです。
(5)フッ素(F):処理せずに使える限界、(その1)4 ppmです。これ以上の数値では骨疾病を起しやすいです。(その2)2 ppm。歯に茶色の斑点が出ることがあり、二次的最大汚染レベル(EPA SMCL)としています。(その3)0.7~1.2 ppm。家畜の虫歯予防に最適なレベルです。高いレベルになると歯に茶色のしみができ、歯を駄目にすることがあります。
(6)鉄(Fe):処理せずに使える限界は0.3 ppmです。これ以上の数値では水が金属製の味になり茶褐色のしみがつき、二次的最大汚染レベル(EPA SMCL)としています。
(7)マンガン(Mn):処理せずに使える限界は0.05 ppmです。これ以上の数値では鉄分に似た反応があり、黒色のしみが牛舎や生乳用バルクタンク室の壁や器具に付き易いので、二次的最大汚染レベル(EPA SMCL)としています。
(8)硝酸態窒素(NO3-N)と硝酸態(NO3):処理せずに使える限界は人間と家畜に対して(NO3-N)では10 ppm、(NO3)では45 ppmです。これ以上の数値では下水、汚水、糞尿などによる汚染の可能性があり、乳幼児には致命的な場合もあります。水の中の硫酸態窒素(NO3-N)が 25 mg/l(25ppm)を越しているときは、飼料中の窒素も測定し、水の中の窒素分と合わせて全飼料中の窒素量を計算する必要があります。計算は摂取飼料 中の窒素量と飲んだ水の中の窒素量を足し、総摂取乾物量で割ることで得られます。硝酸態窒素(NO3-N)1mgは、硝酸態(NO3)4.4 mg と同等です。硝酸態の汚染は100~200 ppmでも危険である場合があり、3,000 ppmでは先ず致死レベルであると云われていますので、硝酸態の水質汚染については環境の面から米国でも非常に高い関心があります。
(9)硫酸態(SO4):処理せずに使える限界は(SO4)では250 ppmです。これ以上の数値では軟便や下痢を起しやすく、水質は硬水で酸性(pH)が低く、二次的最大汚染レベル(EPA SMCL)としています。
(10)全固形 (TS):処理せずに使える限界は500 ppmです。これ以上の数値では、パイプラインや洗浄用の温水ヒーターなどにかすが付着したり沈殿しやすくなり、二次的最大汚染レベル(EPA SMCL)としています。畜種の多くは溶解全固形物が15,000~17,000 ppmでも許容できますが、そのレベルでは大半の家畜の生産性には多大な悪影響が出ます。
水分中の物質を測定したときの数値は、通常、1リットル当りのミリグラム数 (mg/l)で表わしていますが、これは百万分の一と同じですから(ppm)とも云います。微量ミネラルなどになると、更に低い数値ですから1リットル当 りのマイクログラム数(μg/l)で表わしますが、これは10億分の一と同じですから(ppb)とも云います。したがって、(1 ppb)は、(1 μg/l)と同じです。1リットル当りのミリグラム数は1リットルの水の中にある化学物質の重量を指していますが、1 ppmは重量に対しての重量の比率を指していますから、例えば、1キロの化学物質が100万キロ(1000トン)の水の中にあるのと同じであり、1グラム の化学物質が1000キロ(1トン)の水の中にあるのと同じです。
家 畜用の水の中の化学物質許容量として絶対的ではないにしても時折使われるレベルは、砒素(As)が0.2 ppm、カドミウム(Cd)が 0.05 ppm、鉛(Pb)が 0.1 ppm、水銀 (Hg)が0.001 ppm、バナジウム (V) が 1 ppm、セレン(Se)が 0.05 ppm などです。通常は、こういった極微量ミネラル類は現場では調べませんが、前述の硝酸態窒素(NO3-N)か硝酸態(NO3)のレベル、全固形分(TS)の レベル、また、土壌散布の硫酸関係の肥料が多いときは、井戸水などの硫酸態(SO4)のレベルには関心が高いです。
本トピックスは、母校のアイオワ州立大学(ISU)、また、ウィスコンシン大学やペンシルバニア州立大学(PSU)などいくつかの州立大学のエクステンション刊行物、米国農務省環境局(USDA-EPA)の資料、酪農管理協議会(DPC)の資料などを参考にしました。
余 談ですが、近年、日本や欧米諸国、また、開発途上国において、人間の飲み水や料理に使う水に対しての関心が種々の理由から高まっています。したがって、水 のマーケッティングでは輸入の水のブランド数が増えていますし、国内産の水についても似たような傾向があります。以前から、日本の家畜用の水にもそのよう な傾向が一部に見られましたが、やはり家畜にとって重要なのは本質的な水そのものです。実際は、人間に対しても水で重要なのは本質的な水そのものですが、 通常の人間社会では、水であれ何であれ異なる価値観を多角度から捉えて押すマーケッティングがあります。また、それらに対しての満足感は購買する人それぞ れで異なりますし、流動的な側面もあるので家畜用の水と人間用の水では若干捉え方が異なるでしょう(瀬良、2007)。 |