アメリカ大豆協会

瀬良英介ニュースレター

瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2008年5月 (184)

NRCの仕事を将来引き継ぐ組織は何処か

全米科学アカデミーのNRCから出版される栄養要求量や分析値は、多くの飼料栄養専門家が参考にしている刊行物である。日本にも同じように家畜家禽別の飼養標準や標準飼料成分表があるが、日本国内でも飼料栄養専門家や現場の普及専門員にNRCを併用している人が多い。それは、NRC乳牛(2001年版)の381ページに及ぶ膨大な量の改訂版を完全に日本語にした訳本が出版されていることでも分かる。因みに、NRCが米国で出版している改訂版の代表的なものにはNRC家禽(1994年版)、NRC豚(1998年版)、NRC肉牛(2000年版)、NRC乳牛(2001年版)、NRC犬と猫(2006年販)、NRC小型反芻獣(2007年版)、NRC馬(2007年版)などがあるし、NRC実験動物というのもある。

  NRCの家畜別栄養要求量は必要に応じて5年から10年前後の間隔で改定版が出版されてきた経緯がある。然し、州立大学や国立試験場など公的機関の膨大な研究データや論文を検討し統合して一つの標準的方向を出すというのには莫大な資金と時間を必要とする。そのような理由から、次回からのNRC改定版はもう出ないと考えている米国の飼料専門家や大学関係者は多いが、流動的であり最終確定ではない。筆者は米国科学アカデミーがNRC改定版を出す確率は相当に下がったとみている。然し、それで「空が落ちてくるわけではない」。米国の飼料産業やそれを支える大学や公的研究機関、また、業界と公的機関の横の連携は想像以上に強く絶えず変貌しながら進んでいる。

  全米粗飼料検定協会(NFTA)と飼料分析コンソーティアム(FeedAC)の連携は明るい。飼料というのは粗飼料だけで成り立っているのではない。穀類や大豆、雑穀や雑豆、菜種や綿実、ビタミン・ミネラル・酵素や酵母など微量成分原料が配合飼料、サプリメント、プレミックス製品などの中で絡んだ産業である故に、筆者はFeedACがNFTAによるラボ「認定」などを通して業界を先導し将来の飼料分析データベースを構築していくのではないかと推察している。FeedACの会長はウィスコンシン州マジソンのヴァイタプラス社会長でもあるがウィスコンシン大学や他の大学との連携も非常に層が厚く深い。

飼料分析コンソーティアムは2003年に創設された業界組織であるが新しい分析方法やデータベースの構築と配合設計の改善などを目的としている。NFTAは粗飼料分析の制度を上げるために粗飼料分析ラボ、全米乾草協会、米国粗飼料と草地協議会が集い1984年に創設された組織である。

  ここにきて飼料分析データの標準化と精度を今まで以上にあげる要求に迫られているものに近赤外線分析器(NIRS=Near-Infrared Spectroscopy)がある。飼料原料の輸出エレベーターでも以前から使用しており、短時間で成分を検出する分析能力は非常に高く、器材は能力に対して妥当な価格になってきている。NFTAも近赤外線分析器をかなり以前から使っていた。この辺りは前編(183号)の飼料分析ラボなどでも別の角度から取り上げたチャレンジである。

  更なるチャレンジとは、それぞれのラボが使っているNIRSの検量(カリブレーション)をどう調整して標準化するかである。検量をするためには、それぞれのラボが従来からの試験管、フラスコ、試薬、バーナーなどを使ったウエット・ケミストリー法で出した値で器具の検量を行い、修正していかなくてはならない。これは、日本を含め世界中で使っている数多くのNIRSについても云えることである。

この従来からのウエット・ケミストリー法で分析して検量値を出すのもそれぞれのラボや分析技術者(ケミスト)によって結果は僅かずつでも異なる。それは、分析方法の違いもあるし、各ケミストの経験と精度の高い手順や分析のやり方が絡む。この検量に至る過程で出る数値も許容誤差範囲内に押え、標準化できるようにすることは地味だが重要なチャレンジである。米国国立農業試験場の技術者や研究者も粗飼料などの成分を出すのにNIRSを普通に使うようになってきている。各国でも多く使われるようになったNIRSは、速やかに分析できる器材として決して高くなくなった現在、恐らく、NFTAが認定するラボを使うという考え方で飼料分析コンソーティアムが協調するようになるのではないかと思われる。

  余談であるが、飼料分析と配合設計は畜産飼料分野では面白い課題の一つである。あるレベルに達成して認定を受けたラボやケミストでも、未来永劫、そのレベルが維持できるとは思わないほうがよい。やはり分析コンペなども行い、「認定」を受けている期間にも期限をつけながら「前進」する必要がある。日本でも似たようなことは当てはまる。現在すでに関係現場に従事している若い人たちにも、また、これから畜産や飼料関係の大学に進む学生たちにも将来に向かって幅広い「夢」のある分野であると信じている(瀬良、2008)。


 
ホーム サイトマップ お問い合わせ English Japanese